贅沢な紅茶

先日妹と弟が京都に遊びに来た。せっかくなので昼下がりに烏丸四条なる紅茶専門店ティータイムを取ることにした。 ストレートティーが1000円程度、ミルクティーが1200円程度と、少し高めの価格設定の店であった。

某ウイルスのせいか、交通の便がいい立地でありながら、店内は閑散として落ち着けた。

僕はミルクティーを注文した。 抽出の段階から砂糖を入れるようで、甘くてもいいか聞かれた。 砂糖の甘さはなくてよかったので、入れないで欲しいと頼んだ。

口の広いティーカップにミルクティーが注がれ、上にはフワフワに泡立てられ、 ほのかに甘みの追加された牛乳が乗っていた。 紅茶はコクのあフォームドミルクの中にうまく溶け込み、一口含むと口全体に甘味のある香りが広がった。鼻から出てくる吐息の最後まで美味しかった。

飲み終えようかという頃合いで、抽出に使った鍋とそこに残った茶葉を見せてくれた。 牛乳をあっためグラグラしたところに紅茶を30gほど投入し、すぐに火を止め 葉が開いたところを見て茶漉しを通してカップに注ぐという。

後日自宅にて、ふとあの紅茶の香りを思い出し、自分でも入れてみることにした。 流石に30gも使うのは抵抗があったので、チャイを入れる容量で牛乳をあっためたところに 紅茶を入れてしばらくグラグラと煮出した。 隣では牛乳をあっためながら泡立て器でフォームドミルクを作った。

抽出した紅茶を茶葉で濾してカップに注ぎ、その上にフォームドミルクを乗せて完成である。 非常に美味しかった。 流石に店で飲んだものほどとはいかないが、家で飲むには十分すぎるほどの出来であった。 贅沢なものである。

ところでこの贅沢というのは何かと考えれば、それは金銭的なものではない。 家で飲んだこの紅茶は、おそらく100円もかからずに作れている。

この贅沢とは、経験と時間のことである。 先日あの紅茶を飲んだことで、世の中にはこのような飲み物があることを知り、その味を 経験した。これには額面通り1200円の価値があろう。 また、家でそのような紅茶を淹れ、飲み干し、洗い物まで含めれば45分くらいだろうか。 実際はこの文章を書いているのでもっとかかっているが… 飲む時間を数えなければおそらく15分くらいで終わるだろうが、時間に追われている人には その15分といえどもおしいものだろう。

物を買ってもそれだけでは家が散らかるだけだ。 これは上念さんに言わせれば負債を買っていることになろう。

ところが経験や時間にお金をかけると、それだけ生活が豊かになる。 お金を生み出すわけではないかもしれないが、僕はこれを資産だと思いたい。